『いたこニーチェ』の記事でも触れましたが、青空文庫では、「ケヶ」の問題と「行頭括弧の字下げ」の問題を巡る対立が、ずっと続いています。
青空文庫というのは、著作権保護期間を経過した本を、電子テキストとして入力して、インターネット上に公開して、無料で読めるようにしている団体です。入力・校正をしている人たちは、一部の人を除いて、多くは無報酬(ボランティア)でやっています。わたしも、つい最近やめましたが、9年間、無報酬で作業をしてきました。
「ケヶ」の問題のほうから説明しますと、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」という字があります。「三ヶ月」とか「金ヶ崎町」といった使い方をする字です。この「ヶ」は、片仮名で「三ケ月」とか「金ケ崎町」と表記することもあります。青空文庫のルールでは、底本(入力や校正に使う元になる本)で「ケ」であっても、物を数える際や地名などに用いる「ケ」はすべて「ヶ」に代えて、文末に「※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。」という註記を入れることになっています。
わたしとしては、底本が片仮名の「ケ」を使っているのであれば、そのとおり「ケ」で入力することが、その底本をつくった人たちの思いを継ぐことになって、いいと思うのですが、青空文庫では、それを認めてくれません。
ようするに、青空文庫の人たちは、物を数える際や地名などには小さな「ヶ」を用いるのが正しくて、片仮名の「ケ」を用いるのは間違いだ、間違いは正さなければいけない、と思っているのです。自分が正しいと思うやり方に、すべて統一させようとしているのです。
わたしがこのルールが間違いであることに気づいたのは、文末に入れさせられている「※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。」という註記をよく見ていたときでした。「ヶ」を大振りにつくっている?
わたしは、自分が底本に使った本を調べてみました。該当する文字をスキャナーでスキャンして、画像を半透明にして重ねてみたのです。
片仮名の「ケ」と大振りにつくられた「ヶ」とされている文字は、調べたすべての本で、形・大きさ・位置が、すべてぴったりと一致しました。ぴったりと同じ形・大きさ・位置の文字を、文脈から判断して使い分けている、ということはありえません。つまり、ここで使われているのは、大振りにつくられた「ヶ」ではなくて、明らかに片仮名の「ケ」なのです。「ヶ」に直させたがる人たちが、底本どおりに入力すべきだ、という批判をかわすために、この「ケ」は片仮名の「ケ」ではなくて、大振りにつくられた「ヶ」だ、という詭弁を弄していたのです。それが、画像を重ねてみることによって、嘘だとばれてしまったのです。
わたしは、底本が「ケ」ならば、そのとおりに「ケ」で入力することが正しいと思いますが、「ヶ」に直したい人たちの気持ちも分かるから、どちらでもいいことにしたらどうでしょうか、と提案してみましたが、受け入れてもらえませんでした。
わたしは、青空文庫の人たちに、青空文庫のルールを守れないのならば、そういうファイルは、どこか別のところで公開すればいいのでは?、という意味のことを言われました。
異論をもつ人を排除しようとしていると、最初は反発を感じたのですが、考えてみれば、電子テキストを青空文庫に集中させるよりも、個性的なテキストアーカイブがあちこちにできるほうが、文化現象としては健全なのかもしれない、と思いなおして、わたしは、青空文庫から離れることにしました。
納得できないことを無理して続けさせられるのも、いやですし。
「行頭括弧の字下げ」問題というのは、これも青空文庫のルールで、改行して、行頭を1ますスペースを空けて、括弧やかぎ括弧などが来る場合、この1ますスペースを取って、行頭から括弧やかぎ括弧を入力するように定められていることをいいます。
これなども、「ケヶ」問題と一緒で、「行頭に1ますスペースを空けてから括弧やかぎ括弧が来るのは間違いで、行頭から括弧やかぎ括弧が来るのが正しい、世の中のテキストは、すべてこの正しい流儀で書き改められるべきだ」という、自己中心的な発想に由来するルールなのだと思います。
青空文庫は、ずっとこういう理不尽なやり方で、作品の改変をやってきました。この責任は、青空文庫の呼びかけ人として名前が挙げられている、富田倫生、八巻美恵、LUNA CATの三氏が、とらなくてはいけないのだと思います。
わたしは、今後、青空文庫の作業に関わるつもりはありませんが、9年間関わってしまった責任から、青空文庫の間違いを指摘することは、続けていきたいと思っています。
平成21年12月23日 田中敬三記す
脱会者の手記 別名、青空文庫を責めないで♪
自分の家庭をかえりみないで、戸別訪問スタイルの宗教の勧誘にのめり込む人たちが問題になっていますが、わたしの青空文庫での9年間は、あれと同じようなものだったんだと、ようやく気がつきました。
2000年の正岡子規「寒山落木」から、来年公開されるであろう有島武郎「北海道に就いての印象」まで、95作品のファイルに、名前が残ってしまいました。そのうち14作品には、あの「「ヶ」は大振りにつくられていますぅ」の、みっともない註記つきです。ああ、はずかしい。
相手が悪すぎます。協力ボランティアを「工作員」と呼び続ける人です。11月19日の「そらもよう」で「すべての魂の兄弟姉妹とともに。」なんて叫ぶ人です。そして、自分と違う意見は、まったく耳に入らなくなる人です。
わたしは今、自分が青空文庫に生まれなくて本当によかったと、胸をなでおろしています。(12月27日)
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